思ひ出小箱

Manhattan Requiem

今なお褪せぬ、探偵物語

Manhattan Requiem

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発売年:
1987年
メーカー:
リバーヒルソフト
機種:
PC-8801
ジャンル:
アドベンチャー
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「大人」の為のアドベンチャーゲーム

10年続ければ伝統、100年続ければ文化、1000年続ければ遺産といった言葉が示すように、ゲームが本当の意味で文化として評価されるようになるのに、もうちょっと先のことなのかもしれない。ゲーム至上主義の人達がなんと理屈づけしようとも、現状、ゲームは単なるおもちゃでしかない。まあ強いて言うなら“大人も楽しめるおもちゃ”といったところだろう。

大人も楽しめるゲームの特徴といえば、今も昔もストーリー性によるところが多い。それは単純明快に悪いやつをやっつければOK! というものではなく、大人が好むハードボイルドな世界観だったり、パッと見は子供向きであっても、主人公が二人の女性の間で揺れたり、薬物問題が登場したり、敵との知的な駆け引きが必要だったりと、どこか現実の問題や生活とクロスオーバーするシーンがたくさん登場するのだ。

  • 前作で登場したサラシールズが自殺を図るところから物語りはスタートする。彼女に何があったのだろうか?

一般的には大人向けの作品は、ゲーム市場が成熟して生まれたかのような印象を持つ人が多いのだけれど、実際にはパソコンゲーム黎明期からかなりの数のタイトルがリリースされてきた。ちょっと脇道に話がそれてしまうが、黎明期のゲーム業界には、今のようにゲームはこうあるべきという指針は何もなかったわけで、何かパソコンを使って新しい表現ができないかと、映画業界などの他のエンタメ業界から移住してきたような人だってたくさんいたのである。そういう意味で考えれば、ゲーム業界の黎明期から大人向けのゲームがたくさん作られてきたことも理解できるものだ。

そんな大人なゲームの代表作といえば、筆者がまっさきに思い出すのは、リバーヒルソフトの名作の数々。その中でも特に『J.Bハロルド』や『藤堂龍之介探偵日記』といったシリーズは印象深く当時はかなり熱中してプレイしたものだ。難度が高くプレイに行き詰ったりもしたが、世界観やストーリーのよさに、諦めることなく楽しめた記憶がある。

  • いよいよ捜査開始。大人な感じのBGMが心地よい。まずは目の前の建物に入って話をすべし。

本物の手帳を忘れずに!?

J.Bハロルドシリーズの第一弾は『殺人倶楽部』(1986年)。同社はこの作品で一躍有名になり、以後は続編や数々の名作をリリースすることになった。第二弾『マンハッタンレクイエム』(1987年)と、その外伝の『キス・オブ・マーダー』(1987年)、第三弾『D.C.コネクション』(1989年)、第四弾は『ブルー・シカゴ・ブルース』(1995年)、以後プラットフォームをケータイ電話に替え、『シアトル・パープル・ヘイズ』(2006年)、『サンフランシスコ・ブラック・ベル』などもリリースされている。ここまで長く愛されているシリーズも珍しく、そうした実績を考えれば、日本が誇るミステリーアドベンチャーといっても過言ではないだろう。

  • そんなことまで聞くの?と思えるような細かい選択肢。これぞ探偵ならではのコマンド選択?

シリーズ中で一番思い出に残っているのは、『マンハッタンレクイエム』である。というのもJ.Bハロルドシリーズの中で筆者が初めて触れたのが本作であり、このタイトルのプレイが契機となってミステリーアドベンチャーの面白さにぐいぐいと引き込まれていった……いわば初恋の人のようなタイトルなのだ。

ニューヨーク・マンハッタンで一人の女が謎の死を遂げた。彼女は自ら死を選んで飛び降りたかに見えたが、遺書も書き置きもなく、翌日の食事の約束をしていた人間もいる。そして手に握られていた小さな古いブリキのオルゴール。不明な点は残るにもかかわらず、この街では誰もそのことを疑問にさえ思っていない。かつての相棒ジャド・グレゴリーに乞われてこの因縁めいた事件を調べることになったJ.B.がマンハッタンに現れたところから、この物語は始まる(EGGカタログより)。

  • とにかく登場人物などのデータも多い。これらは全部メモしながらプレイするのだ!

本作の魅力について考えると、圧倒的なデータ量ではないかと思っている。何回も同じ場所に行かなければならないことはもちろん、登場人物のディティールがしっかりしており、人間関係なども実にしっかり構築されているのだ。この手のゲームであまりに情報が多いとプレイヤーが混乱しまうものだが、実は本作には手帳や人物のシールが同梱されており、手帳に書き込むことで情報を整理する仕組みになっていた。実に探偵らしい演出である。まあ、どうしても攻略できなければコマンド総当りを試してもよいかもしれないが、ここまでお膳立てされてしまっては真面目に捜査したくなるのが人情と言うもの。気分はすっかり探偵になり、時には画面を、時には手帳を覗き込みながら捜査に夢中になったものである。さらにしっとりとした音楽なども、そうしたプレイを後押ししてくれるため高評価だ。ある意味、渋い音楽の数々は探偵映画を見ているような気にさせてくれた。

ストーリーについては割愛させてもらうが、中盤くらいまではサクサク進むことだろう。ところが終盤戦に向かうにしたがって、情報不足ややり忘れたことがあり、つまづくところが増えてくる。根気のよさが問われる展開となってくるので、これから遊んでみよう! という人は覚悟を完了しておいた方がいい。とはいえ、早解きなどに熱を燃やすのは子供のすること。ここは大人らしく、じっくりと時間をかけてプレイしてみてはいかがだろうか。もちろん(現在手帳を入手することは難しいので)、本作の攻略にあたっては専用の手帳を一冊用意しておくことも忘れずに。またリメイク版なども出ているが、懐かしく渋い画面もゲームの魅力の1つだと思うので、できることならEGGのオリジナル版を遊んでほしい。秋の夜長はじっくりと探偵家業にいそしんでみてはいかがだろうか?

  • X68000版での開始画面。グラフィックスがリニューアルされており、美麗な画面でゲームが楽しめるのは嬉しいところ。