『時計じかけのアクワリオ』サウンドトラック 発売記念
坂本慎一(ウエストン ビット エンタテイメント) 特別インタビュー



メイキング・オブ・アクワリオ・サウンドトラックス

未発売に終わった、幻の三人同時プレイ・アクション

――そもそも『時計じかけのアクワリオ』ってどんなゲームだったんでしょうか?

「内容としては『モンスター・レア』に近いです。強制横スクロールで、でももうちょっと協力プレイ型になってる。
最初は二人同時プレイだったんですけど、結局三人同時プレイになりました。キャラクタも三種類あって、少年(ハック・ロンド)と少女(エル・ムーン)とロボット(ガッシュ)です。
攻撃方法は、上から踏みつけて倒したり、掴んで投げたり。あ、その投げたのを他のプレイヤーがキャッチなんかもできましたねー。あと、直前まで寄って頭突きとか(笑)」

――なにがどう『時計仕掛け』だったのか、気になるところですが。

「なんだっけなぁ?……ああ、最初ゼンマイが付いてて、それで時間制になってたんですね……何かが(笑)僕自身もうよく覚えてないところも多いんですよ。
あ、まてよ、そもそも最初は“ゴーストハンター”って名前だったぞ(笑)」

――さすがにもう13年も前の作品で、基板もソースもどこへ行ったか分からない状況となると、無理もありません。一応ロケテストで出回りはしたのですよね?

「遊んだ人は、そんなにはいないでしょうけどね。」


今回のオンライン・アルバム化のために、当時のデザイナであるMina.M氏に描き下ろしていただいたジャケット画。 下からハック・ロンド、ガッシュ、エル・ムーン。その上のゼンマイ仕掛けな金魚?が「アクワリオ」なのだろう。

並木学氏との意外な接点

――でも当時ロケテストで遊んだ人の評価は、いまでも高いようです。ところで、並木学さんもその時にプレイなさったというお話で……。

「マジですか!? ああそういえば今日、別件で並木さんとお話していて、その際、発覚したんですけど、当時僕は彼に『アクワリオ』の音楽データをこっそり渡していたそうなんです。『レコンポーザー』で作成したGS音源用のファイルをISHファイルにして、PC−VANだったのかな、パソコン通信で送っていたという。そんなことしたっけなあと(笑)」

――それはまたいろいろと興味深いお話ですね(笑)データはまずGS音源で制作していたわけですか。ということは、MIDIバージョンも現存するかもしれない?

「いや、『レコンポーザー』のデータが残っていたこと自体覚えてなくて、そんなのあったんだ……という感じなので(笑)
あ、でも今日、『アクワリオ・サウンドマスター・ファイル』って書いてあるフロッピーディスクを発見したんですよ。でもPC-9801の3モード用ディスクなんで、読もうと思っても読めなかった。いったい何が入っているんだろうという感じなんですが(笑)」

――当社は「Project EGG」などでレトロPCゲームを中心に扱っている会社ですから、古いPC−9801がいくつもありますよ。ぜひデータ保護のお手伝いをさせてください(笑)
ところで、並木さんとのご交流は、その時点ですでにあったということでしょうか?

「いや、交流というほどのやりとりはなかったですね。ただうちの会社に、並木さんと同級生で『ライオット・シティ』や『モンスターワールドIV』の楽曲を作ったスタッフがいて、その関係でよく知っていたし、ウエストンにも時々遊びに来ていた。」

『アクワリオ』が最後な理由

「ウエストンには結構サウンド屋さんがいたんですよね。僕もそうですし、先ほどの並木さんの同級生の他に、二名。」

――なるほど。表面的には、ウエストンといえば坂本さんオンリーというイメージがありました。

「いやぁ、多分みんな僕より才能ありますよ。いやホントに(笑)

僕はどちらかというとエンジニア方面からこの業界に入っているじゃないですか。でもみんなは最初から音楽をやるのが目的で、たまたまゲームの音楽を選択したわけですよね。僕はやっぱり系統が違うので、CD−DAの曲を作ってくれっていわれたら、本当に困っちゃう。そんなに無限の可能性がある状態で、どうすりゃいいのと(笑)何でも出せちゃうじゃないですか、いらないからそんなにって(笑)

結局持っている機材でクオリティが決まっちゃうとなると、これはキビシイです。

実はCD−DAでもいくつかゲームの曲を作ってるんですけど、ぜんぜん自分で納得してないです。」

――生粋のチップ・ミュージシャンですね(笑)そういう意識もあって、『アクワリオ』が坂本さんの実質的な最終作品になると。

「『アクワリオ』がアーケード最後の作品になるんじゃないかな……と、作っているときから自分でも感じていて。市場がコンシューマに移行しようとしていたし、もしアーケードでやり続けるとしたら、この先は体感モノしかないだろうなと思ってました。」

――『アクワリオ』のマスターテープには「1993.8.24」という日付があります。格闘ゲーム全盛期ですし、厳しい状況下だったのでしょうね。

「そうですね。ロケテストも1993年で、新宿と上野で行いました。テストの成績が良くなかったので結局お蔵入りになっちゃいましたが、ほんと、出したかったですね。」



今回の収録に使用したマスターテープ。坂本氏が開発当時に自分自身で基板から録音していたもので「アーケード基板のサウンドはそう遠くない将来に聴けなくなってしまう」という危機感を、その頃から抱いていたのだという。

坂本流ハウス&アシッドジャズ

――音楽面でいえば、やっぱり当時の坂本さんらしからぬハウス・テイストに驚かされるわけですが、ちょうどこの時期、クラブトラック的アプローチのゲームミュージックが同時多発的に現れはじめています。『アクワリオ』も相当早い部類ということになりますから、ゲームが無事世に出ていれば、サウンド面でも注目されただろうなと思うんです。

「ちょうどアシッドジャズやハウスを聴き始めていて、『うわぁ、おもしれー』って思っていたんです。J-WAVEあたりで夜中にやたらハウスがかかっていて、いいなぁと。知ってる範囲では、ゲームでまだその辺の音を誰もやっていなかったんで、出来る限りチップの音でそういった世界観を表現してみたかったんですけど、自分で消化してみるとハウスじゃなくなっちゃった(笑)」

――いい意味で坂本さんらしさをちゃんと残したまま、ハウスを通過しているサウンドだと思いますよ。その意味では古代祐三氏の『ベアナックル』に近い雰囲気があります。あれは1991年と相当早かったですね。

「『高橋名人の大冒険島』のサウンドを古代さんに担当して頂いてましたので、もちろん古代さんのことは存じてたんですが、当時『ベアナックル』は知ってたかなぁ?

ハウスを通過というか、貫通しちゃってます(笑)あんなにアンニュイな雰囲気にはできなかったですね。たぶんシーケンサとシンセで普通に作っていれば、ああいう空気にできたんでしょうけど、ゲームのサウンドではそこまでやっちゃいけないんじゃないかなと……。」

――一応ブレーキをかけてみたわけですか。なるほど。

「あと僕、リズムが実は苦手なんですよね。長年ドラムなしで作曲してきたし、あまりリズムを入れない曲作りをしていたので、どうすればいいのか分からないところがあって。でもこういうジャンルなら、ずっと同じリズムが続くので、その意味では楽じゃないですか(笑)」

――かえってリズムを意識しないで済んだと(笑)

「データも小さくなるし。」

 

もうひとつのテーマ・脱FM音源

「『アクワリオ』ではもうひとつ、『脱FM音源』というテーマもあったんです。実はFM音源に最初に触れていたのはテクモ時代で、『アクワリオ』の時にはもう食傷気味だったんですね。そこで、FMでありながらより、アナログな音は出せないかと、発音中に音源チップのさまざまなパラメータを書換えて、通常は出せないVCFを弄ったような音を出したりしてます。その為に、割り込みも1/60秒単位ではなく1/240秒単位で処理してます。」

――聴いた感触でも、音源ドライバが大幅に進化していると分かります。それまでの作品に比べて、ピッチベンド(音のうねり)にかなり特徴がありますよね。

「ピッチベンド、やりやすくなったんですよ。それまでウチのドライバってLFO(ビブラート)の一部を瞬間的に使ってピッチベンドを実現してたんです。でもこの時にはたぶんMIDIデータを使えるようになっていて、ピッチベンド情報がデータの中に埋まってたんじゃないかな。」

――『Blast 'Em Up (Boss!!)』などは、曲中の効果音などにもかなり気合が入ってますよね。

「そうですね、効果音みたいな音が出せるっていうんで、喜んで一生懸命やってました。」

――やっぱり効果音的な音作りができるような機能を充実させていたのでしょうか。

「いや、違うんです。このドライバって、効果音もBGMも同じファンクション、同じデータ構造なんです。それでシーケンスデータ中から、効果音を呼び出すこともできるんですね。だから『これ凄いじゃん!』っていう効果音ができたら、何にでも使い回すことができる。変わったドライバでしたね。」

――それが未発表ゲームで一回きりの使用だったとは、本当にもったいないことです。

「前作『オーライル』に近い基板だったんで、ドライバも進化させないと作る意味がないっていって、そこまでやってたんだと思います。

そういえば、CPUが暴走したときって、よくいい音がするんですよ。どうなってるんだろうと思って、その暴走時のデータをよく解析してました(笑)聴いたことのない、ぶっとんだ音がするんですよね。

開発中にはよくあることですね。データ文を間違えたときもそうですけど、サウンドドライバを作りたての頃に多い。どこかでミスって変なところをコールして、ボギャーンとかいう凄い音が出ることがある。でも、何をどうやってんだか分からない(笑)その音をなんとか再現したくて解析してみると、全部のチャンネルから音が出てて、結局こりゃ使えないわ……なんてこともありましたね。

音色といえば、FM音源の最後の頃には、FM音源の音声合成機能にアプローチしたりもしてましたが、うまく鳴らなくてやめたんです。『ボワ〜』ってボコーダみたくなるところまでは行ったんですけど、バグにしか聴こえなくて(笑)

この頃はコンシューマのほうも作り始めていて。『モンスターワールドIII』とかですね。こっちもかなり特殊でしたよ。PCのMIDI端子をメガドライブに繋いで、『レコンポーザー』で直接鳴らせるようにしていました。」

――それもまた凄い話ですね。そういうことをやりたがっている人は現在でもいるんですが、なかなかうまくいっていないみたいです。
さて、『アクワリオ』に話を戻しますが、マスターテープはいきなり「Round 5 BGM」から始まっています。これは……。

「『オーライル』のときと逆で、『アクワリオ』は完全にゲーム先行だったんです。むしろ、ぎりぎりまでわざと楽曲を作らなかった。で、これがたぶん最初に作った曲なんです。作りやすい面から先に作っていく感じでした。」

アクワリオ・グルーヴ

――最後に、お気に入りのトラックというと、どれでしょう。

「一番はどれだろう、『Cooney Doop (Round 2 BGM)』かもしれませんね。これは凄く自分らしいと思うんですよ。サビの部分への持って行きかた、ワザとやってんですけど、前半はなるべく高揚感が出ないように作ってて。

今日並木さんにも指摘されたんですけど、僕はよく1コーラス目と2コーラス目でアレンジを変えるんですよね。細かいですねって。だからCD化されたものの中には、ちゃんと全部収録されてないものがあるそうなんですけど、作った本人は忘れてたりして(笑)ええ、そうだったっけという感じで。

昔はコピー&ペーストしてたんですけど、2コーラス目も同じってどうなのよ、なんかひねったほうがいいんじゃないかと思うようになったんですね。
それから『The Land of Pureness (Ending)』ですね。これはたぶん久保田利伸の影響があるんですよ。このときに初めてグルーヴってものを理解したんです。自分で同じように打ち込んでも、なんだか違うものになってしまう。どうしてだろうってことで、試行錯誤を繰り返してやっと分かった。いまのシーケンサには普通にグルーヴを出すクオンタイズ機能があるので大変分かりやすいんですが。

僕は『アクワリオ』で初めてグルーヴを入れたんですよね。たとえば16分音符って、普通にシーケンサで打ち込むと全部同じ長さになる。でもグルーヴが入ると最初が少し長くて次が遅れると。今じゃ当たり前なんですけど、当時はそれが分かってなくて。

シャッフルともちょっと違う、微妙な差異じゃないですか。でもそんな細かい指定を自動でやってくれるものは当時なくて、一個いっこ手作業で音符の長さを調節したんですよね。分かったときには、これで出せるんだ、ノリが!という感じでした。その後シーケンサがだんだん賢くなってきて、今じゃ意識する必要もなくなりましたけどね。」

――日本の伝統的なシーケンサって、グルーヴにはぜんぜん向いてませんでしたね。

「そうですね。これがまたデータ量も食うんですよね。16分音符がずっと続くだけなら簡単にデータを最適化できるんですが。」

――セガの「ファンタジーゾーン」あたりはその意味でも、早くからよく頑張ってましたよね。

「『ファンタジーゾーン』、いいですよね。あれはシステム16(『アクワリオ』のシステム18に構造の近い基板)ですよね。
あとは……『Brisky-Frisky (Round 1 BGM)』ですね。僕のなかでのジュリアナが、これなんですよ。PCMの事情があるので、あんまりオケヒは入れられなかったし、ジュリアナに行ったこともなかったんですけど(笑)
ところで、曲によっては複数のリズムが同時に鳴っているように聞こえると思うんですけど、実はPCMは1チャンネルだけです。だから、たとえばカウベルの音とスネアの音を別々に録音するだけじゃなくて、両方鳴っている状態も録音して、2チャンネルに聴こえるようにするとか、そういう工夫をしてました。」

――このPCMチップがとても音質悪いんですよね。

「そう、サンプリング・レートが低すぎて、ハイハット系は全くNGだったんです。仕方なくFMでやりました。PCMリズムは『オーライル』の時からすでにやってますけど、ほんとにボイスにしか使えないものを、無理やり使ってたんですよね。」

――こんなPCMでよくあれだけ低音を活かした音作りができたなぁと思うんです。『アクワリオ』、低音に結構こだわってますよね。

「こだわってます。バランスの問題ですけどね。低音を目立たせるには、他のパートの音量を落とすしかなかったんで、ゲームセンターに置かれたときに『なんだこれ、音小さいな』と思わせて、基板のボリュームを上げてもらう。そうやって低音を上げる、といったことを僕は想定してました。テーカン時代の『センジョウ』では同じことやろうとして失敗したんですけどね(笑)」

――10年越しのリベンジだったわけですか(笑)なるほど。

(To Be Continued)