「ECLIPSE」(CLOCKUP)――梅本竜いわく「FM音源時代以降に最も力を注いだ、入魂の一作」。事実そのサウンドは、彼の代表作「EVE: burst error」や「この世の果てで恋を歌う少女YU-NO」の正統進化型といえるものだ。
EXTRA TRACK
「ECLIPSE」は2003年にCLOCKUPブランドの第2弾として発売された美少女ゲームである。月面を舞台にした芯のあるSF設定は、梅本竜にとって「EVE: burst error」で確立したサスペンス路線のエレクトリック・ジャズ・ロックをより深く追究する、またとない好材料であった。
しかしながら当時、梅本氏は自身の活動をあまり公にしておらず、本作が彼の手によるものであることも、ごく少数のファンに知られるのみに留まった。そのサウンドトラックの音楽的な価値は、彼のやる気と対照的に、ほとんど正当に評価されないまま今日に至っている。むろんゲームをプレイした人たちの間では、作品世界をナチュラルかつダイナミックに表現したサウンドトラックとして一定の評価を得ていたのだが、本作の真価はそこに留まるものではない。「ECLIPSE」のサウンドトラックは、彼にとって、ひとつの試金石であったといえよう。FM音源時代に名声を得たゲームミュージック・コンポーザーたちは往々にして、よりハイスペックな音源では自分の個性を見失いがちになる。梅本竜の場合は、はたしてどうか――。
そこに拓かれたのは、アコースティックとシンセティックが絶妙のバランスで同居する、新しい地平だった。まごうことなき梅本サウンドでありながら、それまでのどの梅本サウンドとも異なる……FM音源時代に培った音色へのこだわりが、その後大成した独自の音楽理論「梅本メソド」と融合し、現在形・梅本竜の出発点となったのが本作なのである。「EVE」や「YU-NO」という大作の評価をひきずり続けてきた彼だが、そのサウンドは現在も確実に進化し続けていることを、ぜひ皆さんの耳で確かめてほしい。
今回のCD化にあたっては、梅本竜みずからオリジナル全曲の完全リマスタリングを行っており、最新のVSTプラグインや、ローランドの新型シンセ・Sonic Cellを導入して、さらに艶のある音と、深みのあるサウンドエフェクトを追求している。全体としてゲーム・サウンドトラックというよりは、一枚のコンセプト・アルバムとして聴かれることを意識した構成となっている。ゲーム未収録だったオープニングテーマの完全版もあわせて収録しており、ゲームとはまた別の物語を、本アルバムから感じ取っていただけるはずだ(ちなみに収録曲のうち3曲は盟友・高見龍によるもの。ハードエッジな作風がアルバムを通してのメリハリ感にいっそう磨きをかけている)。
また「当時やりたくても出来なかった」という、FM音源と他音源の自然なハーモニーを実現すべく、新たにアレンジ3曲を書き下ろし。「梅本竜といえばFM音源」という方にも納得の内容となっていることだろう。
「梅本竜レアトラックス」シリーズは本作を第1弾として、全3作をリリース予定。すべてお買い上げの方には、さらにレアな何かが……? ご期待ください!!
hally (egg music producer)