イースI 失われし古代王国 序章

イースI 失われし古代王国 序章

難しい事が当然だったPCゲーム

“今、RPGは優しさの時代へ”。これは1987年にリリースされたアクションRPG『イース』のキャッチコピーで、当時遊ばれていたパソコン(以下PC)用RPGが、いかに“優しさ”とかけ離れていたかがよく理解できる内容となっている。

『イース』がリリースされた20年前を思い起こせば、机の上には、せっせとマップを記録した方眼紙や、モンスターの各種パラメータ(数値)が書き込まれたノートの束が散乱し、床には徹夜明けの友達がふせっている……。PC-8801などのPCがあった学校サークルの部室は、どこもこんな光景が広がっていたものだ。

で、冒頭に戻るのだが、そうした過酷な攻略を強いられたPCゲーマーに『イース』は“誰でも(諦めなければ)解ける”という“優しさ”を提唱したのだ。これには当時の硬派なRPGファンからは、ヌルイと反発を買ったかもしれないが、今日までのゲームを取りまく環境を大きく捉えれば、『イース』は今のコンピューターRPGのスタンダードを、イチ早く実践していたことになる。そういう意味では、日本ファルコムの選択は見事に正解で、だからこそ『イース』は多くのファンから支持されることになったのである。本記事では、そんな『イース』の魅力を紹介していこう。

易しくははないが優しい、これこそがイースの本質

『イース』は、トップビューのアクションRPGで、アドル・クリスティンの日誌に記された物語という設定になっている。ちなみに『イース』は『失われし古代王国・序章(Ancient Ys Vanished Omen)』という日誌の内容であり、本作では孤島エステリアを舞台にアドルが6冊のイースの本を求めて冒険することになる。ゲームにはオープニングもなく、タイトル画面でキーを押せば、ミネアの街にアドルが立っていて、いきなり冒険開始となる。実にシンプルだ。

またスタートがシンプルなら操作も非常にシンプル。プレイヤーは2/4/6/8といったテンキーでアドルを操作し、体当たりで会話や戦闘を行う。戦闘は体当たりだけの単純なものだが、大きな爽快感が感じられる。その理由の一つは“半キャラずらし”というテクニックにあるのだ。本作では敵に正面から当たると反撃されることがあるが、キャラクターを半分だけずらしてひっかけるように体当たりすれば、反撃されることなくダメージを与えられる。単に体当たりするだけでは単調になってしまいがちな戦闘も、このテクニックを使うことで、ある程度格上の相手とも戦えたし、緊張感もあった。また平地などでじっとしていれば体力も自動回復することも相まって、さくさくとテンポの良い戦闘が楽しめたのだ。

またゲームを進めるとイベントなどで経験値がもらえることもあるので、レベルアップのテンポも早い。その早さたるやゲーム中盤で最高レベルに達して、頭打ちになるぐらいである。途中で最高レベルになってしまうことから、それ以降はレベルアップによるゴリ押しができず、正直アクションゲームとしては“易しく”はない。しかし、苦手な人でも努力すれば乗り越えられる(ギリギリの)というほどよい難しさ。決してプレイヤーを甘やかさないから、クリアしたときの達成感も大きい。これこそが日本ファルコムの言う“優しさ”なのだと筆者は考えている。

ちなみにテンキーを駆使して上下左右に広い地平を駆け回るスタイルや、アイコンで表示されたアイテム選択などのシステム面は同社の『太陽の神殿』を受け継いだものであるらしい。ほかにも見えないものが見える“マスクオブアイズ/両目のマスク”や“金の台座”といった同じ(酷似してる?)アイテムも登場しており、『イース』と『太陽の神殿』は密接に関連していることが伺えるのだ。

緑の草原を走れば、(当時としては)複雑な地形が4方向に高速スクロールし、暗い廃坑に入れば周りがスポットで照らされる。さらに迷宮の奥には、炎をで攻撃しながらテレポートする魔術師や、長い身体をくねらせる大ムカデや、巨大な鎌を投げるカマキリなどのボスキャラ達が潜んでいる。アクション表現に向かないPCで、これほどまに衝撃的な世界が楽しめたという事実に、当時の多くのプレイヤーが大いにショックを受けたものだった。

またBGMも素晴らしかった。FM音源が奏でるBGMは、戦闘の疾走感を加速し、廃坑での孤独感を増し、ボス戦のスリルを高めるなど、本編とシンクロして大いにプレイを盛り上げてくれた。『イース』は“後のゲームミュージックの世界を変えた作品”の一つに数えられるほどの名曲ぞろいといわれ、本作をプレイしてゲームミュージックに目覚めた人も多かったことだろう。なおPC-8801mkIISR版を初めとする様々なPCや、ファミコンなどの家庭用ゲーム機にも移植され、FM-77AV版では、初代88版でイントロのみだったダルク・ファクト(ラスボス)戦BGM「FINAL BATTLE」の完成版が収録されていた点は、マニアなら抑えておきたい情報である。

今なお、リメイクや新作がリリースされる『イース』シリーズ。その原点ともいえる初代『イース』が今でもプレイできるというのは、ある意味貴重なこと。この機会にあまたも“優しさ”を体験してみてはいかがだろうか。

Text by 多根清史(2009.04.19 掲載)

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