ブランディッシュ

ブランディッシュ

日本ファルコム初のフルマウスオペレーションRPG。独特なマウスオペレーションは魅力!

『ブランディッシュ』はアクションRPGの歴史を語る上で外すことのできない画期的な一本である。3D型RPGの視点切り替えをトップビューに応用した画面構成と、オートマッピングで作成される地図にプレイヤーが印を書き込めるアイデア、そしてなんといっても「フルマウス・オペレーションシステム」、つまりマウスのみですべての操作を行うという点がこのゲーム最大の特徴でもあった。

今でこそマウス操作のアクションゲーム自体は珍しくもない。しかし『ブランディッシュ』が発売された1991年当時、パソコン操作はまだまだキーボードによる入力が中心で、マウスは一部ソフトでの使用に限られていた。“マウス=お絵描き用インターフェース”という認識しか持っていないパソコンユーザーも多かったのである。シミュレーションやアドベンチャーならともかく、アクションRPGをマウスでプレイするというのは非常に斬新な発想であった。

もちろん今現在から振り返ってみても、本作の操作性は独創的である。画面上の主人公の位置は固定で、向きを変えると周囲のグラフィックが回転する。マウスカーソル位置とクリックで移動と攻撃のすべてを行う操作はシンプルでいて奥が深い。慣れるまで時間がかかるので、最初のうちは雑魚モンスターを倒すのにも四苦八苦する。しかしふと気がつくと、いつの間にか自分でも驚くほど素早い直感的な操作ができるようになっているのだ。それがこの作品の大きな魅力のひとつと言えるだろう。

熟練度の上がったプレイヤーの激しい操作に、当時の貧弱なマウスが耐えきれないことも多かったようで、本作には“マウスクラッシャー”という不名誉な称号まで与えられていたという。また、筆者は『ブランディッシュ』にハマってしまったおかげで、他のゲームの操作を思い出すのにとても苦労した覚えがある。本作の「フルマウス・オペレーションシステム」はそれほどまでに特殊で、なおかつ中毒性が高いのだ。

死と隣り合わせのダンジョン探索、ドーラとの絶妙なかけあい

『ブランディッシュ』のストーリーを紹介しよう。主人公アレスは名の通った賞金首。アレスを師匠の仇と恨む女魔法使いドーラ・ドロンにつきまとわれている。太古の昔に呪いによって地中に沈んでしまった小国ビトールに通じる大穴にやってきたアレスは、そこでドーラに襲われる。彼女が見境なく放った強烈な魔法によって足元が崩れ、アレスとドーラは大穴の奥底に落ち込んでしまう。

この大穴の底に広がる大迷宮を抜けて地上を目指すというのが本作の目的である。プレイヤーの分身であるアレスが転落した状態から起きあがり冒険が始まる。ゲーム開始時点で主人公が地べたに這いつくばっているという演出も珍しい。さらにアレスのHPは1の状態なので、まっさきにREST(休息)しないとモンスターに出会い頭でやられてしまうので注意が必要だ。

このスタートが暗示するように、アレスのダンジョン探索は常に死と隣り合わせである。転がる岩や落とし穴など即死トラップの非情さも本作を有名にした。そういったトラップを攻略する謎解き要素、パズル要素も魅力的である。オートマッピングで表示されていく地図に自分でマーキングして罠や宝の位置を示すことができるシステムはプレイヤーの探求心を大いに駆り立ててくれる。

最後に、本作のヒロイン(?)であるドーラ・ドロンの存在を忘れるわけにはいかない。殺伐とした『ブランディッシュ』の世界観にあって、たびたびアレスの前に現れては見事なボケをかましてくれるドーラはプレイヤーにとって一服の清涼剤となる。いつの間にか彼女に会うことがゲームを進めるモチベーションになってしまうほどだ。ドーラとアレスの腐れ縁が『2』『3』と続いていることを考えると、彼女の人気が『ブランディッシュ』のシリーズ化に貢献したことは疑いようがない。

またドーラのキャラクター造形は、おりしもブームとなっていた『ロードス島戦記』や『スレイヤーズ』といったライトノベル系ファンタジーの影響を感じさせる。アニメーターとして知られる結城信輝氏による秀逸なパッケージイラストを覚えている人も多いだろう。『ソーサリアン』(1987)で海外のハードファンタジー的な世界観を再現し『ダイナソア』(1990)ではシリアスに寄りすぎたと言われたファルコムが、本作において国産ライトファンタジーの要素を取り入れたとするとなかなかに興味深い話である。

なお、EGGにて販売されているのは'95年に発売されたリニューアル版となる。これはゲームの中身はそのままに『3』までのシステムアップを『1』に適用し、よりプレイアビリティの向上を図るとともに、BGM変更、バランス調整が行われている。リニューアル版はファルコムがPC-9800シリーズというプラットフォームを最後まで重要視していた証でもあり、EGG化にふさわしい歴史的価値がある。あなたもこの機会に『ブランディッシュ』の奥深いダンジョンに迷い込んでみてはいかがだろう?

Text by 望月倫彦(2011.06.04 掲載)

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