スタートレイダー

スタートレイダー

日本ファルコムの人気シューティングゲーム

1989年に発売された『スタートレーダー』は“シミュレーション、アドベンチャー(以下ADV)、ロールプレイングゲームまでも自然な形で取り込んだ”と銘打たれた、シューティングゲーム(以下、STG)である。今の日本ファルコムファンから見れば、同社は秀逸なRPGメーカーとの印象が強いかもしれないが、かつてはADVやSTGなど、多彩なラインナップで業界を牽引していたメーカーだったのである。ちなみにSTGでいえば、1983年にも『コスモファイターII』という3D STGを制作したという実績があるのだ。

本作品はADVパートとSTGパートによって構成されたゲームである。ゲームの主な流れは、ADVパートで依頼を受け、星系間の移動ではSTGとして爽快感を味わい、依頼を達成して得られる資金を使ってRPGのように装備を整えるといった感じだ。

まずはADVパートから見ていこう。ここではコマンド選択式のアドベンチャーゲームが楽しめるようになっている。宇宙の運び屋稼業を営む主人公カインが少女レフィから「おじいちゃんを探して欲しい」という依頼を受けたことから、神話に伝わる謎の力をめぐる軍部の争いに巻き込まれていくというものがメインストーリーだが、それとは別に運び屋として依頼をこなすサブシナリオが随所で展開される。大まかなストーリー自体は一本道であるものの、日本ファルコムらしいケレンミと、サブシナリオにはランダム要素があるので、何度も繰り返してプレイできることだろう。

全編に80年代SFテイスト満載である。銀河を股にかける冒険屋稼業の主人公が宇宙を揺るがす巨大な謎に巻き込まれていくところなどは、『クラッシャージョー』や『コブラ』を思わせるし、主人公のよきパートナーである人工知能「アダリー」などは、“アンドロイド”という語を生んだSF小説の古典『未来のイヴ』にちなんだものである。他にも愛機“フェンリル”や、序盤に登場するボスの“ミョルニル”などは北欧神話からの要素であったりと、名称設定なども非常に凝っているのだ。ちなみに日本ファルコムの社名の起源となったのは、スターウォーズの“ミレニアム・ファルコン号”だが、そうしたことを考えても、日本ファルコム社内には、かなりのSF通/設定好きがいるのだろう。

やはり主軸はシューティングパート!

STGパートは横スクロールとなっていて、自機は敵の弾が当たっても一撃では破壊されず、被弾するたびに自機の体力が減っていくゲージ制を採用していることも本作の特徴だろう。そもそもSTGはアーケードを主戦場として発展してきたジャンルである。アーケードでは身銭を切って遊んでいるプレイヤーに緊張感を与えるため、また長時間のプレイを防ぎ回転率を上げるために、敵弾一発で撃沈し、おまけにパワーアップしたオプションはリセットというのが定番で、ゲージ制を採用したSTGは“宙返り”で有名なカプコンの『1943 ミッドウェイ海戦』(1987)などごく少数である。一方でコンシューマ機オリジナルのSTGにはクエスト制作の『マジカルチェイス』(1991)、メサイヤの『超兄貴』(1992)などゲージ制の名作が多い。アーケードを前提としない家庭用プラットフォームのSTGにはユーザーがじっくり遊べるような配慮が必要であり、その点で本作におけるゲージ制の採用は理にかなったものだったといえる。

またSTGパートで驚かされるのは、星間移動の行き帰りで左右のスクロールが入れ替わるステージがあるということだ。つまり、復路では画面が右から左にスクロールしていくのである。レトロゲームファンの間ではナムコの『スカイキッド』(1985)が“空前絶後の左スクロールSTG”として名高いが、実はここにも左スクロールのSTGが存在していたのである。この星間往復にともなう左右スクロールの逆転は、ストーリーとの整合性を保つうえでも必要な演出であり、ジャンル複合型STGである本作の面目躍如といえるだろう。

ちなみに当時は、本作のグラフィックの美麗さはアーケードゲームにも引けを取らないとまで賞賛され、後にライセンス移植ではあるもののブラザー工業からSTG部分に特化したX68000版などもリリースされている。

最後にサウンドについても少しだけ触れておこう、本作はご存じFalcom Sound Team J.D.Kの記念すべき結成第一弾ソフトでもある。それだけに各ステージのBGMは気合いの入った仕上がりで、STGの緊迫感とADVのドラマ性を大いに引き立ててくれる。ぜひプレイ中はボリュームを上げて楽しんでいただきたい。

以上で紹介してきたように、アーケードのSTGでは実現できないアイデアを惜しげもなく投入した『スタートレーダー』は“PCゲームのシューティング、かくあるべし!”というメッセージが込められた挑戦的な作品である。STGというジャンルが衰退しつつある今だからこそ振り返っておきたい一本だ。

Text by 望月倫彦(2011.06.04 掲載)

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