イースIII ワンダラーズフロムイース

イースIII ワンダラーズフロムイース

“イースからの放浪者”をめぐる数奇な運命

本作は1989年に『イース』シリーズの第三弾としてリリースされたアクションRPGである。本作は今でこそ『イースIII』の名称で親しまれているものの、初めのPC-8801版がリリースされた当時は『ワンダラーズ・フローム・イース(イースからの放浪者)』というタイトルであり、『イースIII』という名は含まれていなかった。どうしてナンバリングタイトル(正式な続編)とされなかったのか? そこには、『イース』をめぐる数奇な運命が織りなす模様が透けて見える。

一つには、前作の『II』において、シリーズは一応の完結を見ていたということ。もともと『イース』とは、赤毛の剣士・アドル=クリスティンが記した100冊以上もの冒険日誌の一冊『失われし古代王国』という設定である。そして古代王国=イースにまつわる謎は『I』(序章)~『II』(最終章)の中できれいに解き明かされているのだ。

もちろん、『イース』をさ迷ったころのアドルは若干17歳にすぎず、冒険の旅はまだまだ続いただろう。それにしても、イースを後にしたアドルの物語であるから、本来なら『アドルIII』となるべきところ。このちょっとしたフシギは、後の『イースV』(マニュアル内)にて「彼の代表的な冒険には、初心を大切にするという想いから、「イース」の冒険から数えていくつ目の挑戦であるかが表記されている」ということで決着している。

もう一つの事情としては、『I』や『II』からの直接の続編というには、『III』の見かけはあまりにかけ離れていたことが言えるだろう。前作2本はトップビュー(見下ろし)画面だったのに対して、今作はサイドビュー(横からの視点)。アクション性においても敵にぶつかっていく体当たり攻撃や、お馴染み「半キャラずらし」の得意技が使えなくなったのだから、スキルを磨いたユーザーほど揺れに揺れたのである。

そうした配慮もあって、当初は“ワンダラーズ~”という外伝的な位置づけにされたのだろう。しかし『イース』シリーズの真骨頂は、ゲーム・パラダイムの変革にこそあり。“今、RPGは優しさの時代へ”を宣言した第一作、“優しさから感動へ”をキャッチフレーズにした『II』に続き、この『III』もコンピュータRPGの枠組みを変えようとする意欲作だったのだ。

『イース』シリーズでは異色? サイドビューの豊かなアクション性

あの「失われし古代王国」での激闘から約3年後、アドルは親友のドギとともに各地を旅していた。ある日、2人はドギの故郷・フェルガナ地方に関する不吉な噂を耳にし、不安を胸にしてかの地へと急ぐ。そこで目にしたのは、恐ろしい魔物が徘徊し、すっかり荒れ果ててしまったフェルガナだった。その背後には、この地方一帯に伝わる暴虐なる魔王・ガルバラン復活の予兆が……。

操作方法は、前二作と似ていてテンキー四方向への移動を行う。それに加えて横スクロールアクションになってことで、攻撃とジャンプの2つが加わった。方向キーの左右で主人公のアドルを移動させ、上下で階段の上り下り。攻撃で剣を振ってモンスターを倒し、ジャンプして避けるのが基本の戦術である。

さらに、これらキーの組合せによって多彩な攻撃が繰り出せる。ジャンプ中に↓キーで下突き、通常時に↓で姿勢を低くしてしゃがみ斬り、↑で頭上を飛ぶ敵に上突きなどなど。まっすぐ突進するシンプルな作りだった前作までと比べると、凝ったアクション性に重きを置いた変貌をとげている。

アクション面での変更は、基本操作のみに留まらない。魔法およびMPが廃止され、代わりにリングパワーが導入(『I』であったものが『II』でなくなったので、正確には“復活”だが)。冒険中に手に入るリングを装備すると、リングパワーを消費することで、いろいろな効果を得られるというもの。しかも、前作までとは違い、今回はボス戦中でもインベントリー(装備)画面を開いてリングを装着できるので、リングパワーを溜めておいて一気に勝負を賭けられる。

前作の『I』『II』たちが“偉大すぎる傑作”だっただけに、この『III』はシリーズ通じてのファンからも辛めの評価を下されがちである。前作までは精細な画面による豊かなストーリー性など、PCの利点を活かしており、ある意味ではPCゲームとしては“ホーム”といえた内容が、本作はPCが得意とはいえない「アウェイ」にあえて打って出ているのだ。家庭用ゲーム機の世界では標準となっていた横スクロールアクションに挑戦したばかりか、高度な多重スクロールまで実装しているのだ。アドルが走ると、窓の外の雲が、奥の壁が、手前の柱が別々に流れ去る風景は、当時のPCゲームの限界に挑戦する技術の粋といってよさそうだ。

あいかわらず聞き応えのある本作のBGMをこよなく愛する人は多いが、ぜひゲーム本編も改めてプレイしてもらいたい。そこには、PCゲームの最先端をひた走った冒険家・アドルの足跡が、確かに刻まれているはずだ。

Text by 多根清史(2009.04.19 掲載)

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