ロマンシア

ロマンシア

最難関の“ドラスレ”!

愛と平和に満ちた王国、ロマンシアに悪竜ヴァイディスの魔の手が迫る。ファネッサ三世王の一粒種である王国の至宝、セリナ姫の誘拐。それに続く疫病の蔓延が国中を痛めつけ、隣国アゾルバとの不穏な動きとも相俟ってロマンシアは死に瀕していた。そんな折、このホワイトダリア城を訪れた若き旅人、イルスランの王子ファン=フレディが、セリナ姫救出のため、剣をとって立ち上がった……。

伝説の竜殺しの剣の名を冠する80年代ファルコムの看板である『ドラゴンスレイヤー』シリーズ。『ロマンシア』は、そのシリーズ第3弾にあたる作品だが、ドラゴンスレイヤー3ではなくドラゴンスレイヤーJr.というナンバーが振られている。少人数のスタッフで1ヶ月という短期間で開発された『ロマンシア』は、『ザナドゥ』の発売後、ファンからの要望が多かったというストーリー要素に重点をあてた作品だ。アクションRPGならぬアクションAVGを目指したとされる『ロマンシア』は、ドラゴンスレイヤーJr.というナンバーと、都築和彦氏による可愛らしいイラストから、お手軽なゲームと思われがちだが、“こんなのアリか!?”という挑戦的なコピーが示す通り、『ザナドゥ』がA級ならばこちらはS級というぐらい高い難度を誇るゲームなのである。

お金欲しさにモンスターを倒すと攻略に必要なカルマ(『ザナドゥ』とは逆に善行を積むことで増加する)が減ってしまうという剣と魔法のファンタジーにあるまじきジレンマや、挙句の果てには残りタイムカウントまでがフラグとして機能する複雑な内容はプレイヤー達を悩ませたものである。テイストとしては古きよきAVGをアクションゲームにしたらこうなる! といった感じだった。難度の高い謎解きに加えて、アクション性も要求されるので、雑誌の攻略法を見ながらプレイしてもクリアは難しく、購入したもののエンディングに辿りつけなかったプレイヤーが数多存在した。そのため、80年代を通じて最も難度の高い作品として『ロマンシア』の名を挙げる者も少なくない。

『ロマンシア』に原作が!?

なお、MSX版とMSX2版に限り、『ロマンシア』には裏モードともいうべき別の顔が存在する。ある条件を満たしてゲームを開始すると、主人公がファン・フレディ王子からセリナ・レビ・ラウルーラ王女に変わり、ゲーム中のメッセージはもちろん、MSX2版ではステージ構成全体が別のものに切り替わるのだ。これに関連し、角川書店のパソコンゲーム雑誌『コンプティーク』に連載されていた円英智によるコミカライズ、『ロマンシア 浪漫境伝説』では孤児という設定になっている少女セリナが行方不明のファン・フレディ王子を探しにいくとう主客転倒が行われていたことを付記しておく。

さて、この『ロマンシア』のストーリーラインに、実は「原作」とも言うべき小説が存在するのは御存知だろうか。1735年、フランスはパリにて出版された、ギョーム=ヒヤシンス・ブージャンの『ファン=フェレディン王子のロマンシアへの驚くべき旅』がそれだ。ちなみに『ロマンシア』発表当時の雑誌広告には“ファン・フレディ王子の驚くべき旅”というサブタイトルがついていたのも懐かしい話である。『ファン=フェレディン王子のロマンシアへの驚くべき旅』は、18世紀頃のヨーロッパにおいて大流行していた風刺的架空旅行文学の1冊だが、直接的には1726年に英国で出版されたジョナサン・スウィフトの『ガリヴァー旅行記』の影響下で執筆されたものらしく、作中にリリパット(小人国)やブロブディンナグ(巨人国)といった『ガリヴァー旅行記』に縁の架空地名も登場している。この国に立ち寄った者は、誰もが美貌に変ずるという「世界で最も美しい国」、ロマンシア。この小説は日本国内で邦訳書が出版された形跡はないが、『ロマンシア』発売の2年前、1984年に講談社から発売された『世界文学にみる架空地名大事典』に「ロマンシア」の項目があり、これを読んだ当時の日本ファルコムスタッフがインスピレーションを受けたらしい。

Text by 森瀬 繚(2011.06.04 掲載)

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